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ペーパームーン

                   (96.12.10)


 「サンタさんありがとう。来年もきっと、きっと来てね。」 
この一言が私にとってはたまらなくうれしく、まさに生きる力がわいてくるのです。
 私が参加しているボランティアグループ「ペーパームーン」が年に一度行うサンタクロース派遣企画も、今年で5年目を迎えることにな りました。もともとペーパームーンは地元の社会福祉協議会より男女の出会いの場を作り、結婚問題に力になってほしいとの要請を受け、今から6年前に発足した会です。今では、出会いの場以外にも、コンサートや演劇、親子ふれあいの場作りにといろいろ企画を実施させてきています。

 この、サンタクロースの来る予定のないお宅を、サンタがプレゼントを持って訪れるという企画は、そんなペーパームーンの 行う1年の行事の大事なしめくくりとなっていますが、最初はほんのお遊び感覚で始まったイベントでした。
 定例の会合で、メンバーの一人から「友人のお宅にサンタの扮装をして、毎年プレゼントを持って行っているのだが、これをペーパームー ンの企画としてとりあげたらどうだろう。」という話がでました。

 これはきっとおもしろい試みになりそうだと早速その冬、市内の子供さんのいそうな家をまわることになりました。 最初の3・4軒は、てれくささもあってメンバーの知り合いの家ばかりをまわっていましたが、その移動中にどこからともなくクリスマスソングを歌う子供達の声が私たちの耳に聞こえてきました。
 私たちはいつしかその声に誘われるままに、入ったことのないせまい路地を奥へ奥へと進んで行きました。突き当たりには簡素なアパートがあり、ドア には赤や青の色とりどりの折り紙で作った輪をつなぎ合わせた飾りと「サンタクロースさんいらっしゃい!」と幼い文字で大きく書かれた紙がはってありました。
 私たちの訪問を予期したかのようなこの言葉に、一同は不思議な思いにかられながらドアをノックしました。歌の主は幼い姉妹2人でした。 話を聞くと父親はおらず母親は勤めが遅く留守だと言います。2人は、自分たちが紙に書いたとおりにサンタクロースが本当にやって来たので、それはもう踊り上がって大喜びしてくれました。もしかすると、私たちを本物のサンタクロースと思ったかもしれません。ケーキをプレゼントしてその場を立ち去った私たち一人一人の心には、何とも言えない温かい幸せが広がっていました。

 あれから4年、このイベントが周知されるにつれ、私たちのもとへ個人や企業からの応援の品物がたくさん届くようになりました。多方面から、賛同 の手紙や喜び、お礼の手紙も届き、うれしい悲鳴をあげています。
 サンタ派遣の依頼もたくさん届くので、近年では新聞の折り込みでサンタ派遣希望家 庭を募り、来てほしい理由と子供さんの年齢を書いてもらい、母子家庭、障害を持った子供、高齢者のいらっしゃる家庭などを優先して訪問させていただくことにしています。
 最近、知的障害児を持つあるお母さんから一通のお手紙をいただきました。普段めったなことで表情を動かさないお子さんが、去年のサンタ訪問がとて もうれしかったらしく、サンタクロースの絵やサンタという言葉を聞くと、あの時のことを思い出すのか声をあげて喜ぶのだそうです。今年は障害児教室のみんなでパーティを開くのでぜひ寄ってほしいと書いてありました。こんな手紙は本当にありがたいと思います。みんな心から私たちの訪問を、首を長くして待ってくれているのがよくわかります。
 11月の声がきこえるとメンバーは、この日のための準備をそれぞれの仕事 の合間をぬって喜々として取り掛かり始めます。
 当日は午後から集まり、夕方5時の出発です。1台10人乗りのワゴンに、集まったメンバー11人が 乗り込みました。6人のサンタとピアノ伴奏者、そして人形劇をみせてくれる2人。それに今年は、通信販売で取り寄せたトナカイとクリスマスツリーの衣装をつけたボランティアスタッフも加わっての大所帯です。
 まず最初に手紙で依頼のあった知的障害児のいらっしゃる家庭を訪ねました。ピアノ伴奏にのって人形達が子供達に話しかけます。 「さあ一緒にサンタさんを呼ぼう!」次から次へと現れる6人ものサンタさんに子供達は大喜び。最後にプレゼントを手渡して笑顔で別れました。

 よく、子供達を励ましにあちこち行って大変ですねと声をかけられます。しかし、それはとんでもないことです。励まされているのは実は私たちの方なのですから。
 この活動をしていて思うことがあります。人は自分一人だけの幸せを願っても本当の意味で幸せにはなれないのではないでしょうか。私 たちは周りの人の幸福そうな笑顔を見て自分の幸せを確認しているところがあるように思います。今年もこのサンタ派遣でたくさんの子供達から、幸せと勇気をもらいました。

 私たちのボランティアグループの名前の「ペーパームーン」は、――見かけはうすっぺらな紙のような姿だけど中身は本物だよ――という意味が込め られています。
 子供達や地域のみなさんに分けてもらうパワーをエネルギーに、もっともっとすばらしい活動で私たちのくらしを豊かにし、自分自身生 きがいある生活を送っていきたいと思っています。

 投稿者:ペーパームーン (島根県出雲市在住)


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