家路を急ぐ会社員や学生で満員の電車からホームになだれ降りたんだ。
ひどく混雑して息さえできないような感じだったね。
それから改札口に階段で降りる迄がまた大変なんだ。
細いホームにはたくさんの人がごった返しているからね。
この駅は快速電車が停車してくれる駅だから、ここで各駅停車に乗り換えちゃう人たちもたくさんいるんだ。
彼らは、降りた後もホームにたむろしてなきゃならない。
僕らみたいなホントにここで下車する人達は、彼らをかきわけ、かきわけ階段まで行かなくちゃならない。だからチットも前に進みやしないんだな。
だけど特に今日はひどいんだ。全然進みが悪くてね。
それでチョット無理してさぁ、強引に前に割り込んでみると、大男がやたらゆっくり歩いてるんだ。2メートル近くあんじゃねえか!って大きな奴さ。そいつがま
るでカメのように歩いてるもんだから、後ろの連中はじれてんだな。
ガッツン、ガッツン大男の背中にタックルするように、当たって、終いにゃ、みんな追い抜いてくんだよ。
そりゃあ 大男も、とっくに分かっているはずなんだよ。
だって追い抜いた後にそいつの顔をにらんで「チェッ!」なんてあからさまに言ってる奴だっているんだろうからさあ。
僕だって、何のイヤガラセだ!と思ったさ、みんなのセカセカ歩いている速度と比べりゃあ並外れて遅いからね。
そんで、僕もジレちゃって、野郎を追い抜こうと体を横に滑らせた時に、僕はわかったんだ。そいつがさぁ、何でゆっくり歩いていたのかをね。
そいつの前には、足が不自由な年配の女性がゆっくりゆっくり歩いてんだ。
彼女にしてみれば、邪魔にならないようにさぁ、精一杯速く歩こうとしてるんだ。
それでも夕方の殺人的ラッシュのターミナル駅じゃ彼女はひとたまりもないよ。
若い奴やオヤジ達に吹き飛ばされちゃうかもしんない。
誰だってニホンの通勤駅が身障者向きだなんて思っちゃいないからね。
だから大男の野郎は、彼女が突き飛ばされないようにさぁ、後ろで見守るように壁になってやってたんだ。
僕は、そうか、そうか、って馬鹿みたいにうなずいてさぁ、その大男に「宜しく頼んだぜ」って、口には出さないけど、そう言ってさ、階段を降りってたんだ。
投稿者:osamu