-------- 貯金通帳 その3 ----------- ふっと、うしろを振り向くと、若い男性が立っていました。 「あの〜、もう済みましたか」 「あっ、ごめんなさい。でもね、この機械何だか変なんです」 「変って?」 「お金が余分に入っているんです」 「ひゃあ、さっそく僕も」 「どうですか?」 「いや残念、機械は正常だった〜」 「すみません」 「いやいや、ひょっとしたら僕もと思っただけで」 家に帰ってからも何だか落ちつきません。 機械が間違いじゃないとすると、いったい何なんだろう? 誰かにお金を貸してあげたんだろうか? 明日は日曜日です。 月曜日になれば、通帳を入れて、入金明細を見ればわかるはず。 あれこれ一晩考え込みました。 母が何か心配して送ってくれたのだろうか? でも、通帳番号も知らないのに送れるわけがないし、、、。 そういえば通帳番号を知っているのは息子しかいない! あっ、そうだ、息子だ〜、やっとわかりました。 つい先日、友人の息子さんが4月から社会人になり 月に6万円を家に入れてくれると言って喜んでいる事を話したのです。 無口な息子は、ちょっといやな顔をしながら黙って聞いていました。 私の誕生日プレゼントのセーターをくれた時も 黙って押入れに置き、しばらくしてから気がついた事がありました。 いくら無口でも「ハイ、プレゼント!」位 言えばいいのにと思いました。 でも、私も人のことを言えません。 朝食に何回呼んでも起きてこないので腹がたってきて 猫のエサと箸を置いて黙って出勤したことがありました。 24万円といえば、 (1月〜6月)半年分6x4で月4万円、 又は(1月〜12月)1年分として12x2で月2万円 まあいいや、少しでも家に入れるという気持ちが大事なんだから、、、。 今晩は久しぶりにご馳走してやろう。 まぐろのお刺身がいいかなあ ヒレカツにしようか そうそう上寿司も買ってきてと、、、。 そっちがそうなら、こっちも黙ってご馳走しましょっと。 息子が帰ってきました。 ちょっとびっくりしたような顔をしたけれど、 理由も聞かず、ひたすら美味しそうに食べています。 「うふふ、、、」心の中はうれしさでいっぱいでした。 月曜日、もう明細を見なくてもいいけれど ちょっぴりワクワクしたくて通帳を入れてみました。 24万円の入金は、自分で積んだ定期預金の満期金でした。 私は真夏の夜の夢を見ていました。 お〜い、昨夜のご馳走代返してくれ〜。