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[駆け込み寺 楽書帳]


安らぎ句集(96.9.22)


  この数年のつれづれに詠み、書き綴っていた俳句です。
  わたくしは1931年生まれ、主人は1927年生まれです。
  1951年に結婚して、3 人の子供が授かり、4 人の孫に
  恵まれました。日々、自然に親しみ、身近な人々と
  と語らい、ゆったりとした思いで暮らています。


  羅針盤くるいしままに年重ね
                  天と地とひとつになりて我ひとり
  病持つ身なれど我春楽し
                  先生は診察の間に煙草吸い
  仮名文字に乱れ苦しむ初句会
                  荒れ狂う波に心を任せけり
  熱帯魚時違えず主待ちぬ


  −夫(つま)に与ふ−

  缶ビール勿体無やと喉仏
                  六十路過ぎ働く夫に手を合わせ
  居眠りや大口開けて春を飲み
                  晩酌の手を休めてやホームラン
  子育てを終わりて知るや楽しさを


  −うぐいす−

  鶯や薮のなかより春告げる
                  鶯の声艶やかに春深し
  鶯の声に目覚めて春麗ら
                  鶯の声凍りけり春の雪
  鶯の声に聞き惚れ山に入る


  −犬・すずめ−

  恋犬の遠吠え悲しおぼろ月
                  犬の鼻かすめて餌を食む雀
  そっと開け雀の群れに遠慮し
                  南天や雀散らかす雪の花
  朝まだき囀る雀餌を待ち
                  雀来る軒端に燃えるカンナかな
  網戸越し餌食む雀ひねもすに
                  麦秋に雀にぎやかに囀りし
  俄雨軒端賑わす雀かな


  −生活雑感−

  玉葱に涙流して朝が来る
                  味噌汁のみも季節ごと移りけり
  折り込みで世界中をひと巡り
                  目白来て洗濯物を干しそびれ
  梅雨の間に軽やかに舞う洗濯機
                  何時の間に無口になりぬ梅雨かな
  軒先に傘の花咲く晴れ間かな
                  抜け毛にも白髪まじりをり秋の日に
  年の瀬や回る時計の忙しなく
                  風引きの咳にぎやかバスのなか
  玄関に冬の寒さを運ぶ人
                  木枯らしに戸をたたかれて目を覚まし
  薄墨の雲さき分けて光差し
                  何気なし投げし小石の水の輪や
  何ごとぞ開ける窓辺に朝日さし
                  雷鳴を引き裂き聞こゆサイレンや
  何時で目を覚ましけり潮騒に
                  彼岸潮遠くに聞こゆ波の音


  −孫のおもがげ可愛い−

  去り行きし孫の面かげ遊園地
                  おぼろ月ゆれるブランコ孫の顔
  扇風機ともに首振る孫可笑し
                  あどけなし眠りし顔に桜花
  幼子の手より零れし桜貝
                  幸せのクローバ探す子等の声


  −亡き母父を偲ぶ−

  お彼岸に母の面影蓬餅
                  母の日や六十路過ぎても母恋し
  亡き母の面影偲ぶ年回忌
                  雪の日の父の背想う年回忌


  −みほとけ−

  護摩壇の燃える炎にこゝろ観る
                  人々の煩悩の灰片付けり
  お大師の御前に聞こゆる蝉しぐれ
                  大吉の結びし枝の緑濃し
  短冊の願い届けよ天の川
                  お参りの前夜は早く休めけり
  萬倍会ふくよかに見ゆだるまさま
                  尼僧さまの笑顔優しき萬倍会
  花まつり揺れるかんざし稚児の列
                  生かされているとも知らで明日思ふ
  神さまに一寸拗ねてる不合格


  −春・夏・秋・冬−

  寒椿降る粉雪に色淡し
                  飛ぶ雲に春一番が吹き来るや
  春雨に山の香匂う夜明けかな
                  春の日やこっくりこっくり何処までも
  映りゆく車の窓に春過ぎて
                  つゆ雨にぱっと咲くなり傘の花
  あれこれと話弾みし夏木陰
                  涼かぜに川面の匂ひ夏の夜
  川堰を乗り越え越えて梅雨かな
                  川風にそよぐ柳や屋形船
  何処より来たりし車雪散らし
                  ひとときの間に塗り上げし山白し


  −友−

  この声は友のものだよ長電話
                  梅雨空に干しそびれたる長電話
  病む友の窓一枝の桜かな


  −戦争−

  黒々と焼け跡悲し春の風
                  焼け跡に小さき緑見つけたり


  −鳥たち−

  春蝉に鶯の声老ひたりき
                  燕来て目を覚ましけり桜花
  茜さす空に飛び立つ鳥一羽
                  雉の声緑の山に吸い込まれ
  電線の雪けちらして鳥止まり
                  ヒヨドリに食い荒らされし菜の花や
  落日に吸い込まれしや鳥一羽
                  落日や塒に急ぐ小鳥かな


  −虫たちもひたすらに−

  鍬先に夢破られし蛙かな
                  蜘蛛の巣や何を待ちてや終日に
  雨上がり露光りけり蜘蛛の巣に
                  蟻なれど行儀良くぞ列を組み
  炎熱に蟻列を組み長々と
                  灼熱の身を焼く恋や蝉時雨
  台風や千切れし羽の蝶悲し
                  コオロギの声をしっかり聞きにけり
  日溜まりに羽休めけり赤とんぼ


  −花・草・木−

  美しき花を夢見て種蒔けり
                  枯れ草の中に見つけた春ひとつ
  古き葉をふるい落として若葉萌え
                  梅の香に誘われて行く小道かな
  春風に竹の穂先は天招き
                  木蓮のそこだけ白き夜の闇
  山は雪桃の蕾もふくらみぬ
                  春雨にキャベツの割れる音聞こえ
  目に沁みる若葉写せるものは無し
                  竹の子の穂先は天を差しにけり
  久かたの雨激しくして花叩かれ
                  暗闇に香確かめ月下美人
  忘られし頃に咲きけり朝顔や
                  朝顔や秋風の頃咲きにけり
  朝顔や季節忘れて咲きにけり
                  秋風にそっと弾けた鳳仙花
  枯れ草の中に燃えるや彼岸花
                  とうきびの採り入れ時をカラス知り
  葉牡丹はしっかり雪を支えおり
                  季節など何処吹く風ぞ花の市

投稿者:白川美昌(Shirakawa Misyou)


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