この数年のつれづれに詠み、書き綴っていた俳句です。
わたくしは1931年生まれ、主人は1927年生まれです。
1951年に結婚して、3 人の子供が授かり、4 人の孫に
恵まれました。日々、自然に親しみ、身近な人々と
と語らい、ゆったりとした思いで暮らています。
羅針盤くるいしままに年重ね
天と地とひとつになりて我ひとり
病持つ身なれど我春楽し
先生は診察の間に煙草吸い
仮名文字に乱れ苦しむ初句会
荒れ狂う波に心を任せけり
熱帯魚時違えず主待ちぬ
−夫(つま)に与ふ−
缶ビール勿体無やと喉仏
六十路過ぎ働く夫に手を合わせ
居眠りや大口開けて春を飲み
晩酌の手を休めてやホームラン
子育てを終わりて知るや楽しさを
−うぐいす−
鶯や薮のなかより春告げる
鶯の声艶やかに春深し
鶯の声に目覚めて春麗ら
鶯の声凍りけり春の雪
鶯の声に聞き惚れ山に入る
−犬・すずめ−
恋犬の遠吠え悲しおぼろ月
犬の鼻かすめて餌を食む雀
そっと開け雀の群れに遠慮し
南天や雀散らかす雪の花
朝まだき囀る雀餌を待ち
雀来る軒端に燃えるカンナかな
網戸越し餌食む雀ひねもすに
麦秋に雀にぎやかに囀りし
俄雨軒端賑わす雀かな
−生活雑感−
玉葱に涙流して朝が来る
味噌汁のみも季節ごと移りけり
折り込みで世界中をひと巡り
目白来て洗濯物を干しそびれ
梅雨の間に軽やかに舞う洗濯機
何時の間に無口になりぬ梅雨かな
軒先に傘の花咲く晴れ間かな
抜け毛にも白髪まじりをり秋の日に
年の瀬や回る時計の忙しなく
風引きの咳にぎやかバスのなか
玄関に冬の寒さを運ぶ人
木枯らしに戸をたたかれて目を覚まし
薄墨の雲さき分けて光差し
何気なし投げし小石の水の輪や
何ごとぞ開ける窓辺に朝日さし
雷鳴を引き裂き聞こゆサイレンや
何時で目を覚ましけり潮騒に
彼岸潮遠くに聞こゆ波の音
−孫のおもがげ可愛い−
去り行きし孫の面かげ遊園地
おぼろ月ゆれるブランコ孫の顔
扇風機ともに首振る孫可笑し
あどけなし眠りし顔に桜花
幼子の手より零れし桜貝
幸せのクローバ探す子等の声
−亡き母父を偲ぶ−
お彼岸に母の面影蓬餅
母の日や六十路過ぎても母恋し
亡き母の面影偲ぶ年回忌
雪の日の父の背想う年回忌
−みほとけ−
護摩壇の燃える炎にこゝろ観る
人々の煩悩の灰片付けり
お大師の御前に聞こゆる蝉しぐれ
大吉の結びし枝の緑濃し
短冊の願い届けよ天の川
お参りの前夜は早く休めけり
萬倍会ふくよかに見ゆだるまさま
尼僧さまの笑顔優しき萬倍会
花まつり揺れるかんざし稚児の列
生かされているとも知らで明日思ふ
神さまに一寸拗ねてる不合格
−春・夏・秋・冬−
寒椿降る粉雪に色淡し
飛ぶ雲に春一番が吹き来るや
春雨に山の香匂う夜明けかな
春の日やこっくりこっくり何処までも
映りゆく車の窓に春過ぎて
つゆ雨にぱっと咲くなり傘の花
あれこれと話弾みし夏木陰
涼かぜに川面の匂ひ夏の夜
川堰を乗り越え越えて梅雨かな
川風にそよぐ柳や屋形船
何処より来たりし車雪散らし
ひとときの間に塗り上げし山白し
−友−
この声は友のものだよ長電話
梅雨空に干しそびれたる長電話
病む友の窓一枝の桜かな
−戦争−
黒々と焼け跡悲し春の風
焼け跡に小さき緑見つけたり
−鳥たち−
春蝉に鶯の声老ひたりき
燕来て目を覚ましけり桜花
茜さす空に飛び立つ鳥一羽
雉の声緑の山に吸い込まれ
電線の雪けちらして鳥止まり
ヒヨドリに食い荒らされし菜の花や
落日に吸い込まれしや鳥一羽
落日や塒に急ぐ小鳥かな
−虫たちもひたすらに−
鍬先に夢破られし蛙かな
蜘蛛の巣や何を待ちてや終日に
雨上がり露光りけり蜘蛛の巣に
蟻なれど行儀良くぞ列を組み
炎熱に蟻列を組み長々と
灼熱の身を焼く恋や蝉時雨
台風や千切れし羽の蝶悲し
コオロギの声をしっかり聞きにけり
日溜まりに羽休めけり赤とんぼ
−花・草・木−
美しき花を夢見て種蒔けり
枯れ草の中に見つけた春ひとつ
古き葉をふるい落として若葉萌え
梅の香に誘われて行く小道かな
春風に竹の穂先は天招き
木蓮のそこだけ白き夜の闇
山は雪桃の蕾もふくらみぬ
春雨にキャベツの割れる音聞こえ
目に沁みる若葉写せるものは無し
竹の子の穂先は天を差しにけり
久かたの雨激しくして花叩かれ
暗闇に香確かめ月下美人
忘られし頃に咲きけり朝顔や
朝顔や秋風の頃咲きにけり
朝顔や季節忘れて咲きにけり
秋風にそっと弾けた鳳仙花
枯れ草の中に燃えるや彼岸花
とうきびの採り入れ時をカラス知り
葉牡丹はしっかり雪を支えおり
季節など何処吹く風ぞ花の市
投稿者:白川美昌(Shirakawa Misyou)