茄 子(なす) たしか十二間道路と言っていた。 今、観音小の裏の道。 整理しなくてもその儘通用している現在の道幅。 もう、かれこれ五十年も昔の話。 広々とした南観音の野菜畑から、アスファルトの道を茄子、南瓜、冬瓜等が、 大きな籠に山盛りに積まれ、それを牛(馬)がゆっくりと牽いていた。 歩き乍ら尻尾を上げて糞をして行く、それを待っていたかの様に近所の おばさんが、塵取りに集めて持って帰る。肥料にしていたのだろう。 (寒くなると湯気のたつ、その瞬間を何度も見た事がある) その畑を少し行くと、川に出る。時々父と遊びに行った。 夢中で貝を探しまわり、気がつけば水に廻りを囲まれていた。 ワンピースの裾を濡らし、慌てて牡蠣の殻で、足の裏を切った事もあった。 暢気な性格は今もちっとも変っていない。 日曜日の朝になると、「ピ――ッ」「第一のコ――ス○○」 「第二のコ――ス**。」 と、 起こされる。 友達と走って見に行く。余り多くはないが、人が集まっている。 水泳会が済んだ後、洗濯板風の板を借りてカナヅチのわたし達が 遊ばせて貰う。 アスファルトの照り返りの中、汗を流し乍ら帰るのである。 冷えた大きな西瓜が待っていた。 父も居たあの頃が懐かしい。 茄子の花ひとり散歩の日曜日 ※註:観音小学校は現在も広島市西区にある。 児童たちはよく観音院に遊びに来る。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ―― 八月六日 ―― 八月の広島 平和の街にもいつもの暑い 六日の朝を迎えようとしている 川岸の夾竹桃も 優しい目の鳩も子雀も 大きく羽ばたき 又 ツツツッと愛らしく 人々の足元に寄り乍ら 時には 何かを訴えるかの様に だが 静かな午後も訪れる 父を想い 姉を慕う お願いッ 父よ帰って来て 姉よ帰って来て 今 大空に向かい 「ひろしま平和の鐘」を 力強く歌いたい