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鈴の法話(すずのほうわ)  2002年7月号   [法話 6月号][8月]
   −いたわり 慈しみ 思いやり 相手の立場で考える


鈴の法話(すずのほうわ) 2002-7月−1

日本の国債が格下げになったとか
  私は上がったり下がったりするものに
   心痛は嫌ですから係わらないことにしてます

                 観音院 法主 鈴之僧正

 ムーディーズ・インベスターズ・サービスという格付け会社
が日本の国債を二段階も引き下げて、日本が債務不履行を宣言
する危険性が高まったそうで、理由は、不良債権処理が進んで
いないからだそうです。確かに日本の債務は増加し続けていま
す。財政赤字の削減手段は、増税と歳出削減ですが、日本経済
は疲弊していて、だれが総理大臣になっても、そう簡単に解決
することは不可能で、小泉さんの責任でも塩爺さんの責任でも
無さそうです。ムーディーズ何とかかんとかいう会社も、相当
いい加減な会社で、格付けの理由が上手く説明できない。雑音
みたいなもので、日本の政府が格下げに抗議したとか、だから
といって私がどうのこうの言い難しです。(田川純照筆記)


将来の見通しを話すことは
     十善戒に触れることになります

 不況は底を打ったのでしょうか、国債の格付けが下がって、どう
なるのでしょうか、近いうちに日本に大きな事が起きますか------、
このような質問に、私(法主)は答える義務も知識も一切ありません。

 日本の国債の八割は、日本の保険や年金、銀行、日銀、郵貯など
が保有していて、アメリカの格付け会社にかれこれ言われる理由は
ありません。
 はっきり言えば、無いお金を、国債などと称して借り入れて使わ
ないこと。税収以上の支出をしないこと。
 一年くらいは一銭の税収が無くても、やって行けるくらいの富を
もつこと。これ以上は国債を発行しないこと。
 税金を使って国民にとって必用の無い大きな建物、構造物などを
欲しがらないこと。
 税収を求めて、国民の射幸心(しゃこうしん)を煽(あお)るよ
うな宝くじやカジノなどをやらぬこと。
 国民が適切、かつ、十分な職業教育が受けられること。
 金利を実情に合わせること。無用な規制を撤廃すること。

 最近、私にとってこれは何だと思うような出来事としては、年金
受取額が何かの負担で減額されたことでしょうか。大きな問題点は
ありませんが、情報開示が適切でない金融機関のペイオフは絶対に
止めてください。
 多くの人から、何処の金融機関なら大丈夫か、と聞かれて困って
います。
 病院に行き、薬をもらって、医療費も何だか高くなったような気
がします。年寄りには残酷物語。

 多くの若い者が、老後について大変に心配しています。掛け金と
利息と支給額と平均年齢と人数の何処かに致命的に間違いの数字が
あるのでは無いかと疑いを持っているのです。
 いい加減な数字よりは、駄目なものは駄目と言ってくれたほうが
将来設計が立て易い、政治にも、制度にも大変な不信感を持ちなが
ら日本に住むのは大変です。

 アメリカの何処がそんなに良いのか、住んだことがありませんの
で、理解できませんが、近年、留学などした人たちからアメリカに
定住したいという相談メールがよく入ります。
 アメリカも景気に陰りが出て、それほど良い国家とも思えません
が、若い人たちが永住したいという何かがあるのでしょう。

 日本もアメリカも弱肉強食の社会構造です。お金があって強い者
が社会を支配しています。これは殺生なことで、「十善戒」の第一
の「不殺生」に相反する国家像です。

 最近の世の中は、日本の伝統的に価値ある仕事をしている人たち
を追い出しているのでは無いかと、しばしば思います。
 それに加えて、日本人の平均的所得は下落傾向ですが、それでも
発展途上国の平均的所得の八倍から十倍です。
 単純労働に限らず、専門的労働も低賃金の国に仕事が移転されて
います。
 もしかすると、過去の日本の繁栄はアメリカの仕事を奪っていた
のではないかと考えることもあります。

 ご近所にあった雑貨屋さん、八百屋さん、酒屋さん、呉服屋さん、
天麩羅屋さん、駄菓子屋さんなどが、大規模量販店に吸い込まれ、
生業が立ち行かず、それが破綻する。
 その他のいろいろなお店や作業場、町工場が無くなり、鍛冶屋さ
んや紙箱屋さん、手袋屋さんなどを見ることも難しくなりました。
 昔ながらの、いろいろな仕事に従事していた人たちやその後継者
はどうされたのでしょう。
 過疎地や中間山地、離島などはいよいよ淋しくなる一方で、その
上に少子化----、日本の人口が急激に減っている。困ったことです。

 金融機関の統廃などは、考えることも難しいことでした。どのよ
うな大きな会社でも終身雇用や年功序列賃金は夢になりました。
 嫌な仕事も、辞めることができないような雰囲気です。四十歳を
過ぎてリストラされた人たちの再就職は絶望的ともいわれています。
 反面では、フリーターと言われる人たちも増加傾向です。

 作ったものは壊れる、盛えるものは衰える、人も物も制度も社会
も、例外は無いと思います。

   祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
   沙羅双樹の花の色、生者必衰の理をあらわす・・・、

 昔も今も、同じようなことが繰り返されます。


激変する世の中で、将来のことを語るのは困難なことです。
 たとえどのように変化しようとも、誠実に働き、約束を守る
 人は生きて行けます。
 この世に不変のものを求めるのは無理なことです。

困難な時には、み仏さまに助けを求めなさい。
 小欲知足で、慎み深く、全ての人に思いやりをもって、相手
 の立場で考えなさい。他人の悪いところを見ずに良いところ
 をみるようにしなさい。

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鈴の法話 2002-07月号−2


知恵を付加しない十善戒は石ころを作ることに
  生産性なき十善戒は、独り善がりになりがちなもの

 十善戒の第一で「不殺生(ふせっしょう)」は「全ての生きとし
生けるものの生命を断たない」ということです。
 蚊も蠅もゴキブリも、一匹たりとも殺さないと受けとめると野蛮
な考え方になります。

 仏教では昆虫のみならず、山川草木、全てに命があると説きます
ので、厳重に、額面通りこの戒を護持(ごじ)すると、人は自然に
存在しただけで将来は無いかもしれません。
 同時に、地球温暖化など、人が自然を傷つけていることに重大な
関心をもつべき綱引きをしていることに気付かねばなりません。
 ダム建設、埋め立て、道路建設など、、、、私たちは自然を壊す
存在です。
 風邪を引くと抗生物質を処方されることも、殺生の概念に包含さ
れます。しかしウイルスの蔓延(まんえん)を放置できません。

 最近の組織は、能率と利益の物差しでしか、人を判断していない
ようです。職の変遷に伴う教育を早急に充実すること大切です。
 失業率を下げるために、共に助け合い、国民的な努力をすること
が求められています。
 幼な子の安全をはかり、高齢者にも安心して老後が過せるような
社会をつくること。弱者に優しい社会をつくることが大切です。

 私は年齢不相応の大きな情熱やエネルギーをもっていると感じて
います。その使途を過つと、破壊的力にもなりますし、攻撃力にも
なります。これらの意志や力は、優しさに向けることで昇華してい
ます。
 「十善戒を護持する」ことは、決して何も求めない、欲が無い、
必要なものは何も無いということではありません。
 人が生まれて、物心が付いてから、どのような「社会的態度」を
とるかということが大切になります。


 十善戒の第二、不偸盗(ふちゅうとう)も、大切な心掛けです。
偸(ぬす)みをしない、盗むことをしない。
 盗みは、目に見える物をはじめ、目に見えない電気など、さらに
知的所有権などと対象は単純ではありません。
 盗みは同時に、邪淫、妄語(もうご)、綺語(きご)、悪口(あ
っく)、両舌を伴うもので、慳貪(けんどん)で瞋恚(しんい)で
邪見(じゃけん)な心から行動に移されるものです。

 「殺生」と「偸盗」はしばしば同時になされるもので、他人の心
を傷つける行為です。
 結果として、人々を困惑に陥(おとしい)れ、人の将来や生命す
ら奪うことがあります。
 他人の座るべき椅子も、しばしば盗まれます。保証したために、
家を失う人もいます。金利も十%を超えると、盗みのうちに入るで
しょう。

 地位を利用した斡旋(あっせん)も盗み。買収も談合も盗みです。
 盗みの多くは、刑事事件として訴追されますが、刑法に触れない
盗み、触れかねない盗みもしてはなりません。

 観音院には沢山のパソコンがありますが、全て購入したソフトを
使用していて著作権侵害という行為は絶対にしないことにしています。

 嘘偽りを吐いて得たものは全て盗みと同じです。
 たとえば、公約を掲げて当選し、実行できないで、公職について
いる人は全て盗人です。
 約束を守れないものも、全て盗人に分類されます。政治家の多く
は有権者の票と心を盗んでいます。
 盗むことはいけない。子供も理解している道徳のイロハです。

 昔の、列強の植民地政策は、間違いも無く、殺生と盗みによって、
自国の国富を積み上げたもので、著名な博物館や美術館は悪事の
記念碑のようなものです。

 現代でも、医療制度や補助金制度は多分に盗みを包含しているも
のが多いように思います。
 商行為の多くには盗みに相当する部分がいろいろあって、消費者
の知らないところ、原産地を偽るとか、使用禁止の物質を付加して
あって、殺生なことがまかり通っています。
 需要と供給の間にも、盗みに相当する部分がいろいろあって、
道徳的とは到底言えないような構造があります。

 盗みと殺生は日常的に行われていますが、人や企業の悪しきとこ
ろばかりあげつらうのも殺生です。
 ですから、できるだけ良いところを見てあげるような世の中で
あって欲しいものだと願います。
 悪いところばかり見る人にはなぜか悪い人が多いのも事実です。
悪いことばかり目がつくようだと、気持が落ち込みます。

 時間を盗むことになるような怠惰な態度を指摘し、能率の悪さや、
知能の程度をかれこれ言うのは良くないことです。
 それは、他の人の職場や収入を奪うことでもあるからです。

 十善戒の不悪口(ふあっく)という戒は、殺生や偸盗を暴くこと
を悪口だとして戒めます。


善事に執着しない

 十善戒を護持する上で大切なことは善事に執着しないことです。
 善事に執着し過ぎると、悪事をなすより、より悪い結果をもたら
すことがあるからです。
 善人は、時として非常に困った存在になることがあります。善事
をなすことは、「錦の御旗」を振り回すことになりかねない場合が
ままあるからです。

 十善戒は大切なものです。「十善は菩薩の道場」と言われた慈雲
尊者の言葉を待つまでもなく、人の生き方としては大変に尊いもの
です。
 しかし十善戒を護持することは、極めて難しく、だからといって
護持することを諦めたり、人々から遠い存在にしてはなりません。

 不殺生、不偸盗、不邪淫、不妄語、不綺語、不悪口、不両舌、
不慳貪、不瞋恚、不邪見は、自らが人として幸せに生きる妙薬です。
 さりながら、相手の立場で考えるという寛容さと思い遣りの心を
失うと、護持することが難しくなります。


*慈雲尊者*一七一八年生まれ。十三歳得度、畿内各地で修行研究
 を重ね、儒学や神道も学ばれた。理想とされたのは釈迦在世当時
 の教えで、原典に遡って研究され、梵語・悉曇の研究から行われ、
 「梵学津梁」千巻を著わされた、一八〇四年入寂。(注・編集部)


人は本能的欲求や学習によって得たさまざまな欲求を満たすこと
 で生きています。欲求をかなえる前に、自分の欲求をかなえるこ
 とが倫理的な基準を満たしているか、よく考えることが大切です。

善事に執着することが、ストレスになるようであれば不幸なこと
 です。悪事をなすとストレスが生じます。
 善事をなすことが自然な行為であるように負担にならないことが
 菩薩の入門です。


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